I Remember You

基本データ

作曲年
1942年
作曲
Victor Schertzinger (1888-1941)
作詞
Johnny Mercer (1909-1976)

参考音源

Charlie Parker (1953)
Now’s The Timeや多くのコンプリート盤に収録。キーはF。
Dave Brubeck Jazz at the College of the Pacific (1953)
カルテットの演奏でアルトはポール・デスモンド。キーはE♭。
Sarah Vaughan (1963)
ヴァースから歌う。この時代のRoulette盤のものを集めたコンピレーションに収録されている。キーはE♭。

曲目解説

1942年の映画The Fleet’s Inの挿入歌で、映画では女優で歌手のドロシー・ラムーアが歌い演奏はジミー・ドーシー楽団である。途中でジミーが短いクラリネットソロをとっている。

公式記録にもとづき1942年を「作曲年」としたが、作曲者シャーツィンガーはその前年に亡くなっている。彼はこの映画の監督も務めているので公開の年ということだろうか。これまで無批判に「作曲年」という表現を使ってしまったが、改める必要があるのかもしれない。

メロディとコード

キーをFとして説明する。

この曲はライブやセッションでこれまで何度か演奏してきたが、メモリーで(すなわち全員が譜面を見ずに)演奏するときに、どのコードに進行するか悩む場所が何ヶ所かあった。

  • 7小節目(Fmaj7とするかA♭maj7とするか)
  • 23-24小節目(一度Cmaj7に解決させるか否か)
  • 28-29小節目(29小節目をB♭maj7とするかGm7とするか、それにともなって前の小節が変化する)
  • 32-34小節目(33-34を大きくニ・ゴとするかサン・ロク・ニ・ゴとするか。32小節目にもバリエーションあり。

この曲にかぎらずどの曲についても行っていることではあるが、この機会にあらためてたくさんのテイクをきき、またそのなかから実際に12テイクほどコードや演奏を採譜してみた。やはり以上の4箇所についてはずいぶんと振れ幅があって面白かった。

2小節目

こんにちでは、Bm7(♭5) E7 もしくはBm7 E7 と演奏されることが多いかもしれない。オリジナル(1942)ではE7となっている。

ワークショップでもこのコードはどのように解釈したらよいかと議論になったが、きちんと答えられた参加者はいなかった。

私の考えでは、このコード(メジャー・キーにおけるVII7)の本質はIdimである。実際、Vaughan(1963)やその翌年のエラ・フィッツジェラルドの録音はFdimとしている(E/Fと書くこともできる)。

このE7は、E7(♭9)のように演奏されることも多いだろうし、ソロは半音-全音ディミニッシュ・スケール(いわゆるコンディミ)のラインとなることもよくある。もちろん、それは絶対というわけではないけれども、例えばミクソリディアンなどで演奏したときにちょっと意外な響きになるのは、E7(♭9)に対してシャープ方向のテンションの変化(♭9→♮9)が生じるからであって、土台に半音-全音ディミニッシュがあることが前提になったトリックといえる。

ところで、この箇所をFdimで演奏するとしたらスケールは全音-半音ディミニッシュ・スケールということになるが、これは、E7のときに基本とした、Eから始まる半音-全音ディミニッシュ・スケールと同じものである。

ついでに、Bm7(♭5)あるいはBm7はE7に前置されたリレイティブ・コードで、E7(♭9)ということを意識するなら前者のほうが素直だということも言えるが、Bm7であればコード・トーンの5度が期待する♭5(Fで、これはCメジャー・スケール上の音にもあたる)に対してテンション・ノートのように響く効果が得られる。要するにどちらでも構わないともいえるが、厳密には、Bm7(♭5)が基本でBm7がその応用ということに
なろうか。スケールは、Bm7(♭5)はロクリアンでも問題ないがロクリアン♯2でもよい(C♯はFディミニッシュ・スケール=E半音-全音ディミニッシュスケールに含まれるから)。また、Bm7の場合はドリアンで構わない。

私は、トニック・メジャーに進行する代表的な「広義のトゥ・ファイブ」(ドミナント・セブンス・コードとそのリレイティブ・コードのペアという意味)は3つあると考えている。

  • IIm7-V7-Imaj7(いわゆる狭義のトゥ・ファイブ・ワン。IIm7(♭5)-V7-Imaj7や、いわゆるウラにあたる♭VIm7-♭II7-Imaj7も含む。)>
  • IVm7-♭VII7-Imaj7(IVm-Imaj7に、♭VII7が加えられたもの。♭VII7-Imaj7という形になることもある)
  • ♯IVm7(♭5)-VII7-Imaj7(Idim-Imaj7の変化形)

I Remember You の2-3小節目は、これら代表的な3つの進行のうちの3つ目に相当する。そして、同じ進行は、There Will Never Be Another You の28-29小節目、Whisperingの3-5小節目、Like Someone In Loveの6-7小節目、It Could Happen To Youの4-5小節目などにある。曲によってはImaj7がIIIm7として演奏されることがあるかと思うが、その場合♯IVm7(♭5)-VII7がセカンダリ・ドミナントのようなはたらきと考えることもできるが、原曲に当たるとトニックディミニッシュという場合もある。

例えば、There Will Never Be Another YouやLike Someone In Loveのオリジナル進行で該当の箇所はは、II7-♭IIIdim-Imaj7/IIIとなっている。II7に9度を補ってルートを省略すれば♯IVm7(♭5)であり、♭IIIdimはIdimの転回形である。

また、It Could Happen Happen To Youの該当箇所はもともと全体が♭IIIdim-Imaj7/III であり、またWhisperingは、I Remember You同様VII7ではないかと思われる。

5-7小節目

サブドミナント・メジャー(IVmaj7)-サブドミナント・マイナー(IVm[♭VII7])-トニック・メジャー(Imaj7)という代表的な進行で多くのスタンダードで用いられている。

ところが、Parker(1953)を聴くと、6小節目のB♭m7 E♭7を利用して、7小節目をA♭maj7に進行させて一時的に転調させている。Brubeck(1953)も同様に演奏しているが、Parkerが15小節目がFmaj7に戻しているのに対して、Brubeckは15小節目もA♭にしている(さらに35-36小節目も工夫してFmaj7に行かないようにしている=この素直じゃないところが個人的には好き)。

7小節目をA♭maj7とするアイディアはキャノンボール・アダレイやリー・コニッツなども採用している。

13小節目

メロディがF♯なのでDmaj7としなくてはいけないが、たまにDm7として演奏する人を見かけるので注意。

15-16小節目

Cmaj7 | [Gm7] C7 | のように、一度Cmaj7に解決してから元の調にもどるか、C7 | C7 | もしくはGm7 | C7 | としてCmaj7には落ち着かないかという議論がある。

ちなみに、オリジナル(1942)を聴くと前者で、Parker(1953)、Brubeck(1953)、Vaughan(1963)などもならっている。チェット・ベイカー、キャノンボール・アダレイ、ジャッキー・マクリーン、エラ・フィッツジェラルドなども同様。

いっぽう、後者としている例はレニー・ニーハウスの1954年の録音、タル・ファーロウの1950年代後半の録音、ソニー・スティットとオスカー・ピーターソンによる1960年の録音、リー・コニッツの1961年の録音などがあった。

20-21小節目

この曲の5-7小節目に出てくるサブドミナント・メジャー(IVmaj7)-サブドミナント・マイナー(IVm[♭VII7])-トニック・メジャー(Imaj7)という進行には、IIm7-VIm-Imaj7やIVm7-VIm-Imaj7のような亜種があって、前者はThe Days Of Wine And Rosesの5-9小節目、後者はPolka Dots And Moonbeamsの5-6小節目が好例である。

さて、21小節目から23小節目は原曲では、B♭maj7(IVmaj7)-E♭7(♭VII7=IVmの代理)-Fmaj7(Imaj7)としているのであるが、このうち21小節目をIIm7にあたるGm7としている。つまり「酒とバラ」のようにしているのである。

おそらく、メロディがB♭で、コードのルートと同じ音になってサウンドの幅が狭くなってしまうのを回避するための工夫かと思われれる。

21小節目をB♭maj7にするかGm7にするかの選択はその前の20小節のコードに影響を及ぼす。前者の場合、20 小節目はCm7 F7となり、後者ならAm7 D7またはAm7(♭5) D7となる。

21小節目をB♭maj7で演奏しているひとは、Brubeck(1953)のほか、キャノンボール・アダレイ、リー・コニッツといったところ。いっぽう、Gm7としていたのは、Parker(1953)、Vaughan(1963)のほか、レニー・ニーハウス、チェット・ベイカー、タル・ファーロウ、ジャッキー・マクリーン、ソニー・スティットとオスカー・ピーターソン、エラ・フィッツジェラルドと、私が聞いた範囲では多数となっていた。ただし、15-16小節目の判断と相関がないところが面白い。

32-35小節目

まず、33-35を大きくニ・ゴ・イチ、すなわちGm7 | C7 | Fmaj7とするのか、サン・ロク・ニ・ゴ・イチAm7 D7 | Gm7 C7 | Fmaj7とするのかという方針がある。。私の聞いた限りチャーリー・パーカー、リー・コニッツなどが前者だったのに対して、多くは後者またはそれに近い形であった。オリジナルも後者に近い(最初のコードがFma7/C)。

32小節目は実はバリエーションがあって、メモリーで演奏するときには考えてしまうところ。とりあえず「サン・ロク・ニ・ゴ・イチ」に進行し、メロディは2拍目から四分音符でA G Fとなっていることを前提に話を進める。

32小節目の多数派はBm7(♭5) B♭m6 であった。メロディにもよく合うし、ビバップ以降のコード進行の定番でもあるので耳馴染みがよく演奏もしやすい。1954年のレニー・ニーハウスの演奏が採用していたし、キャノンボール・アダレイやジャッキー・マクリーンのようなプレイヤーも採用している。

一方で、Parker(1953)はG7としているが、彼は33小節目はGm7に進行している。33小節目がAm7 D7としていても33小節目をG7としている事例は決して少ないわけではなく、例えば、Vaughan(1963)がそうしているし、翌年のエラ・フィッツジェラルドは、G7を3拍待って4拍目でG♯dimとしている(そうしないとメロディと衝突してしまう)。スティット+ピーターソンは2拍ずつG7-G♯dimとしているが、メロディをフェイしていることもあり衝突はそれほど気にならない。

ちなみにオリジナルがどうなっているかというと、小節全体がBm7(♭5)となっている。前後のコードがFmaj7/Cとなっているのでとてもよい効果である。

このコードは「多数派」の前半のコードに引き継がれていることは容易に理解できるが、パーカーやヴォーンなどの「少数派」であってもBm7(♭5)にGの音を補えば、G79になるわけで、やはり生きているわけである。

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